インサイド・ドキュメント「3D世界規格を作れ!」

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著名AV評論家本田雅一氏による3D規格完成までのドキュメンタリー本インサイド・ドキュメント「3D世界規格を作れ!」 [単行本]をみんぽすさんより頂き読了しました。

「2008年9月、ソニーは全社あげて3D事業化を決定した。だが、すでに3Dテレビの試作を終えていた会社があった。パナソニックである。「2010年、フルHD3Dを世界に先駆けて家庭に届ける」。世界の家電メーカーが戦慄し、苛烈な競争が始まった瞬間だった。

帯の文章から今年から出始めた3Dテレビの裏側にある競争についてひしひしと伝わってくる文章です。

インサイド・ドキュメント「3D世界規格を作れ!」 [単行本] 4093881545

まずはDVDから

3Dの規格制定の話が最初からずっと書かれていくのかと思いつつ読むとDVDの規格制定の話から始まる。これは

  1. 光ディスクとしての理想を追い求めた結果であるDVDの前身であるSDを押す東芝とパナソニック、CDの延長線上にあるMMCDを押すソニーとフィリップスとの戦い。
  2. 豊富なコンテンツを安価な媒体で販売したいワーナーの存在

DVDの規格が東芝が主としてSDに決まった要素として上記、2点があげられるがDVDの次世代の規格競争ではこれら2点が

  1. DVDの延長であるHD DVDを押す東芝、フルHD映像を収めることのできるブルーレイディスクを押すソニーとパナソニック
  2. 付加価値にこだわるDVDでは出遅れたディズニーの存在

東芝に牙を剥きHD DVDを取り下げざるを得なくなった。DVDの父と言われた東芝の山田がDVDでは技術的に優れた規格を押したのに次世代DVDでは一転して技術的に劣る(少なくとも容量では劣る) HD DVDを頑として譲らなかったと書いています。矛盾した山田の行動ですが本書では残念ながら明解な回答は出されていません。しかも、現状では山田は中国でHD DVDの中国専用規格CBHDを推し進めているという驚きの記述まであります。

ブルーレイディスクから3D規格

付加価値を求めていたディズニーは独自の3D規格で3Dソフト展開を考えていたというのは驚き。ディズニーとしてはディズニーの所有するキャラクターやブランドを守り高めつつ薄利多売ではなく付加価値の高いビジネスを展開したいという思いで3Dを選択していたのでしょう。ディズニーは画素数が半分になるハーフHD方式を検討しており、それを聞いたパナソニックとソニーは中途半端な3Dは市場を混乱させると憂慮しフルHD方式の3Dを待つように説得。結局は「2010年末の商戦期までにフルHD対応の3Dテレビと3D対応ブルーレイディスクソフトを再生できるシステムを発売すること」と2008年11月21日に条件付きで認める。しかし、国際規格制定で急いでもこれくらいの期間はかかってしまうので、かなり、ハードルの高い条件。これをなんとか乗り越える戦いをパナソニックとソニーは行うことになる。

IT屋の私の感覚からすると極めて精緻な規格を決めるのに長けているヨーロッパと交渉上手なアメリカという勝手な構図が頭の中にあって、日本のメーカーがこんな短期間に国際規格を決めることができたというのはかなり不思議。

これだけ早く制定できたのは、日本が持つ技術ノウハウ、ハリウッドとの人脈、DVDでの規格制定のノウハウが生きたためと本書を読んで私はそう受け止めました。

3D規格制定の障害

フィリップスはメガネなしのレンチキュラー方式にこだわっている。フィリップスはコンテンツを持っているフォックスを味方にしているのでうまく説得しないとコンテンツサイドからメガネなしだとダメだなんて強硬に言われるとまずいことになる。そこで、とった策は別の作業部会での作業にしてしまうこととしたが平行線は崩れない。そこで、ソニーとパナソニックはじっとりとフィリップスの規格を検討し、どうしても方式が思いつかない3D字幕と3Dメニューグラフィックについて実装可能な具体的な仕様提出を求めることにする。そうするとフィリップスは結局仕様を提示できなくて規格化を断念。日本側の作戦勝ち。

次はPS3問題。3Dの普及を考えた場合PS3のインストールベースはなかなか魅力的。ところがPS3の搭載メモリーが少なく最大転送量がパナソニックが求めているスペックを実現でないということで何回もやりとりがある。1年かけて条件付きながらも60Mビット/秒を実現してクリアーする。パナソニックの高画質へのこだわりとソニー側のぎりぎりの努力の勝利か。

まとめ

私はいまだにメガネをかける3Dテレビというのが普及するのかは疑問を持っています。おそらく、我が家ではアナログ放送停止間際に買うであろう地上波デジタルに3Dテレビを買うかと言われれば現時点では「買わない」です。ただ、コンテンツが増えてきているのでその時点で気が変わる可能性はありですけど。 本書によるとコンテンツを作成しているスタジオも家電メーカも3Dに熱い期待を持っている様ですね。アバターが状況を大きく変えましたがもう一つ話題となるような作品や仕掛けが必要です。

本書ではDVDとブルーレイディスクの環境の違いによる規格の決まり方が描かれていますがマーケティングの良い材料ではないでしょうか。でも、当事者としてどっぷりはまるとクールには見れないでしょうが。また、3Dの規格を国際規格として通す手法は技術だけではない別の知恵や人脈、さらには熱意というものが必要というのを教えてくれています。

技術者に読んでほしい一冊です。

おまけ

3Dに適しているプラズマテレビというところでL/Rのクロストークの話がありました。プラズマなら一瞬で全画面を点灯できるのに対して液晶はシーケンシャルに書き換えていくことになるのでどうしてもクロストークがでてしまい4倍速などしていかなくてはならないと。シャープさんやソニーさんの液晶メーカーでの説明では高らかに4倍速を言ってましたがパナソニックさんではそのあたりは話に出なかったなー。あるいは聞き落としていたのか。本書を読んだ後に再度、各社の説明を聞きたいと思った次第。

コメント

  1. 【経済産業】 『3D世界規格を作れ!』

    2010年は「3D元年」呼ばれた1年でした。
    去年12月の『アバター』公開を皮切りに『アリス・イン・ワンダーランド』など多くの3D映画が相次いで上映され、3D対応のTVやカメラも各社から上市され…

  2. ブロガー執筆書籍紹介 3D世界規格を作れ!

    オルタナティブ・ブロガーの執筆書籍をご案内する本シリーズ、第50回は「パースペク

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